GGOSについて

国土地理院 松坂茂

1. GGOSとは

GGOS(Global Geodetic Observing System:全球統合測地観測システム)は, 国際測地学協会(IAG)の旗艦的な観測システムであり, 測地学の基本的な三つの観測量(地球の幾何学的形状, 重力場, 地球回転:図1)を統合して高精度に観測し, その変動をモニターするとともに, すべての地球関連科学とその応用分野にとっての基盤となるグローバルな基準系を与え維持することを大きな目的としている.

20世紀後半の革命的な宇宙測地技術の登場によって, 測地学はかつてない正確さで地球というダイナミックなシステムのパラメタを測りその変化を追いかけることが可能になった. また, 21世紀に入り, 地球環境問題を受けた持続可能な開発に関する世界的な会議がいくつも開かれ, その中でも全球的な地球観測の重要性が強調された. 2005年の第3回地球観測サミットにおいては, 全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画が策定されるとともに, 「地球観測に関する政府間会合(GEO)」が設立された. 測地学における三つの基本的観測のためのシステムやそれが提供する知見は, まさにGEOSSの使命とも合致する.

上記のような観測技術の進歩, 地球科学全般への貢献, 高まる社会的ニーズなどに測地学が応える形で, GGOSは2003年札幌でのIUGG総会時にIAGのプロジェクトとして誕生した. その後, 初期的設計段階から中核となる組織の整備などを経て2007年にIAGの正式なコンポーネントとなった. GGOSは, 組織としてまた観測システムとしての二つの顔を持っている. 組織としてのGGOSは運営委員会・理事会・委員会・科学パネルなどから構成され, IAGを代表してGEOに参加しGEOSSの一部として貢献するほか, 国連などでも測地コミュニティの代表として発言するなど, IAGのさまざまな観測事業と外部ユーザーとのインターフェースとして機能する. 観測システムとしてのGGOS(図2, 3)は, 主にIAGの観測事業が関係するインフラストラクチュアとデータ・解析センターから構成される. 従って, ここでいう観測システムにはIAGとは直接関係のないインフラが多く含まれる. 例えば, GNNSシステムやさまざまな各宇宙機関が実施している衛星ミッションなどである. 観測インフラが常に利用でき, 将来にわたって安定してデータを供給するためにはGGOSが組織として各システムのプロバイダーに働きかける必要がある. また, GGOSの重要な目的である測地基準系は現代の地理情報社会にとって最も基盤となるインフラであるが, 表に出ないためその重要性が認識されにくい. 将来にわたって安定的かつ高精度な基準系の維持のためにはその必要性を一般社会に強く訴えていく使命も持つ.

図1. 測地学の三本の柱

図2. 観測インフラストラクチュア

図3. 5つの観測レベル

2. GGOS設置要綱と組織

ここでGGOSの設置要綱(2011年改正)をかいつまんで紹介しよう. これは, 2007年に正式にIAGの一員となったのち組織等が見直され, ヴィジョンや使命, 目的等が改正されたものである.

ヴィジョン:地球の空間的および時間的な変化を定量的に捉え, ダイナミックな地球システムの理解を進める.

使命:我々が暮らしている地球は, 常に変動しているダイナミックな惑星であり, その変化をとらえるためには, 真に安定した基準系の上で長期にわたり連続的な観測が必要である.

・地球の形, 回転, 質量分布をモニターし, マップし, 変動を理解するために必要な観測を提供する

・グローバルな基準座標系を提供する, それは地球の変動を測定し解明するための骨格的基盤であり他の多くの科学や社会的応用の基礎でもある

・地球惑星科学とその応用の進歩のために必要な基盤を提供し, 科学および社会に役立てる

目標:

・すべてのグローバルな測地学的情報及び専門知識の提供源となり, 地球科学と社会に貢献すること

・測地観測インフラストラクチュアの維持・更新・改良を積極的に促進すること

・各国際測地事業と協力して安定した地球基準座標系を実現し, 地球の形, 回転, 質量分布の観測と研究をすすめること

・GGOSの意義と恩恵をユーザーや政治家, 資金提供団体, に伝え提唱すること

GGOSは, 科学コミュニティおよび一般社会に対するIAGの中心的なインターフェースとして, 21世紀の測地学および地球力学の問題だけでなくそれに関連した一般社会の課題(資源問題, 自然災害, 気候変動, 海面上昇など)にも取り組むプログラムである.

構成・組織:

GGOSは, GGOSコンソーシアム, GGOS調整会議, 理事会, サイエンスパネル, IAG傘下の事業と委員会, ワーキンググループなどから構成されている(図4). コンソーシアムは, IAGの各組織からの代表から構成される実質的な運営委員会, 調整会議は意思決定機関である.

図4. GGOSの組織構成

3. GGOSの活動と今後

現在GGOSは, 2020年においてその使命を果たすべく機能しているという目標をもってさまざまな戦略を展開している. IAGの主たる観測事業はGGOSという旗印の下で事業をすすめているが, まだGGOSに組み入れられていない事業もある. GGOSが現行の観測システムを統合したSystem of Systemsであるということを考えると, 多くのチャレンジが控えている. 例えば, グローバルな測地基準系の構築においては, 海面上昇を定量的に測定するためのGEOのタスクから要請される1mmの正確さと0.1mm/yrの安定性が目標となる. その実現のためには4つの宇宙技術の高精度な統合が不可欠であり, 複数技術がコロケーションされたサイトのグローバルな展開, 観測機器の更新・維持など長期間にわたる安定的な資金の調達と国際協力が必要となる.

また, 現代社会における測地学の役割と貢献を一般にアッピールするアウトリーチも今後ますます重要になる. 2009年に国連が設置した地球規模の地理空間情報管理に関するイニシアチブ(The United Nations initiative on Global Geospatial Information Management (UN-GGIM))では, グローバルな測地基準系が大きなテーマの一つとなっている. UN-GGIMが主催する専門家委員会や政治家も参加するハイレベルフォーラムなどでIAG/GGOSの代表が測地基準系に関するプレゼンテーションを行っており, 今準備されている基準系に関する国連決議が採択されればGGOSの目標達成に大きな後ろ盾となるだろう. UN-GGIMはその取り組みを進めるため,IAG/GGOSも含めた専門化委員会やハイレベルフォーラムを開催し,準備を進めてきた「地球規模の測地基準座標系を加盟国全体で連携して維持していく」との決議案が2015年2月の国連総会において承認された.GGOSはこの決議をサポートするとともに関係機関と協力しながら活動を進めていくことになろう.

4. GGOSと日本

日本においては, IAGの事業には対応する観測技術を持つ各機関が独立して参画してきた. ITRFの構築にあたっても各種宇宙技術の観測から貴重なデータを提供してきたが, 機関間・技術間の連携はそれほど意識されていなかった.

そのため日本ではこれまでGGOSの活動に直接対応する組織はなく, 各機関がIAGの事業を通じて関わってきたのみであったが, 2013年にIAG小委員会のもとにGGOSワーキンググループが設置され, 各機関・各技術の代表が顔を合わせ情報交換, 機関間の連携, 将来構想などを討議する場がつくられた. 今後, 日本の測地コミュニティとしてGGOSへの貢献が期待される.