1-7. 海洋学と測地学

京都大学大学院理学研究科 福田洋一

歴史的に見て, 海洋学と測地学の最も重要な関わりは, 船を安全に運航させるための正確な位置, すなわち, 正確な航海情報の提供ということであった. GPSの普及した現在では, 航海の安全に必要な位置の精度は十分に達せられるようになっているが, それでも, 船の正確な位置を知ることは, 海底地殻変動, 海面形状や海流など, 測地学, 海洋学の研究にとって, 依然として重要な研究課題である. しかし, ここではこの問題には触れず, 海面形状とジオイドの話題を取り上げよう.

静止した仮想的な海面の形は1つの等ポテンシャル面であり, これはジオイドと呼ばれ, 地球の形状を考える上での1つの基準面を与える. しかしながら, 現実の海面は風や潮汐のために常に変化しているばかりでなく, 海流の存在のため, 長期間の平均海面もジオイド面とは一致しない. 海面のジオイド面からのずれは, 海面の傾きと海流との力学的な平衡(地衡流平衡)によって生じるので, このような海面の高さを力学的海面高度と呼んでいる. 1970年代後半に登場した衛星高度計(海面高度計)は, 海面の形状をcmの精度で測定することができるので, もしジオイドの形が正確にわかっていれば, 海面高度計で測定した海面の形とジオイドの差として力学的海面高度が得られ, それから海流を計算することができる. このことは, 過去20年以上にわたり, 海洋学者, 測地学者共通の研究課題であったが, 海面高度計の利用は着々と進むものの, その精度に見合ったジオイドを決めることは大変困難な問題であった. ジオイドを正確に決めるのに必要な海域の重力データとその精度が決定的に不足していたためである. この問題は, GRACE(Gravity Recovery and Climate Experiment)やGOCE(Gravity Field and Steady-State Ocean Circulation Explorer)などの衛星重力ミッションの実現で一変しようとしている. 特にGOCEは, その名前が示すように海洋循環の研究を1つの重要な目的としており, この計画が実現すると, 少なくとも空間波長100kmより長波長では, 海洋循環を決めるのに十分な精度のジオイドが得られる予定である. 一方, GRACEは, 空間的な分解能はGOCEに及ばないものの, これまでは予想もできなかった海洋の質量変動, 海水準変動, 全球的な水循環などを重力場の時間変化として検出しようとする全く新しい目的を持っており, 今後の地球環境変動の研究にも大いに寄与するものと期待されている.

第3部 海底地殻変動観測

第3部 海洋潮汐

2-4-1-5.衛星高度計

新第3部 GOCEがもたらしたもの