1-8. 陸水学と測地学
京都大学大学院理学研究科 福田洋一
降雨や地下水の変動が地殻変動連続観測に影響を与えることは古くから知られていた. これは地下水による圧力変化や温度変化が観測点近傍の傾斜やひずみ変化を引き起こすためで, 高感度な観測が身上の地殻変動連続観測にとってのノイズ源であるばかりでなく, 地下水の荷重変動による地面の上下動は精密GPS測位にも影響を与えている. 逆に, 地下水位は, 地下の応力・ひずみ場を反映することも確かであり, このことを積極的に利用して, 地下水位変化と地震との関係なども研究されている.
地下水位の変化は, また, 水質量の変化として, 絶対重力計や超伝導重力計等を用いた精密重力測定にも影響を与えており, 経年的な重力変化の研究ではその影響をいかに補正するかが重要な問題となっている. しかし, この場合も, 地下水変動を地表での重力の変化として計測することは, 直接測定が不可能な地下水の質量変化をモニターすることであり, 地下水系の規模や変動の様式の推定など, 陸水学的な研究に精密重力測定を利用しようとする試みもなされている.
衛星重力ミッションは, 同様の原理で, 地球上での質量移動を重力場の変化として測定しようとするものである. 2002年3月に打ち上げられたGRACE(Gravity Recovery and Climate Experiment)では, 空間的に1000kmの広がりで厚さ1cm程度の水に対応する質量変化を検出できると言われており, また, GRACEの後継ミッションでは, さらに高感度な観測が可能になると期待されている. これらのデータは, 海洋と陸水間のグローバルな水循環の研究はもちろん, ミシシッピーやアマゾンなど, 大河川流域での水資源監視などにも利用できるものと期待されている.