1-12. 人間生活と測地学
京都大学大学院理学研究科 福田洋一
かつて測地学は, 国土の分割のための正確な地図作りや, 安全な航海を保障するための海図と測量術の提供など, 極めて実利的な目的のために発展してきた. この過程で, 測地学は応用科学の1つとして, 天文学, 数学, 物理学などの知識を取り入れながら, また, これらの学問分野の発展に寄与しながら, 互いに密接な関連を保ち発展してきた. 科学技術が高度に発達した現在では, それぞれの学問分野が専門化・細分化されることにより, 測地学が直接対象とするのは, 地球の形状, 地球の重力場, 地殻変動, 地球回転など, 位置計測と重力場計測に関連した研究分野となっている. しかしながら, 測地学が, 例えば地球の形状や重力場の原因となるような現象, あるいは, その理論に関連した地球惑星科学の諸分野と強い関連を持っていることは, 極めて当然のことである.
一方, 測地学そのものが応用科学の1つであることに違いはないが, 例えば, 精密測量だけでなく建築・土木などより人間活動に密接した測量技術を対象とした研究分野としては測量学が存在しており, 測量学は, 測地学の1つの応用分野ということもできるであろう. さらに, 精密測地測量や宇宙測地など, 高精度な測地技術を支えているのは, 電子, 情報, 宇宙工学などの広範な最新のテクノロジーであるが, 逆に, 地球上での精密な位置の記載方法や地球の重力場に関する情報がなければ衛星のトラッキングや高精度な軌道制御も不可能であり, 現代の人間生活に欠かせない衛星通信やナビゲーションも, その基盤として測地学が重要な役割を果たしている. このように, 複雑に関連しあった現在の技術社会において, 測地学は, 我々人間が生活する地球そのものを記述する学問として, 一見無関係と思えるさまざまな科学技術と関連して, 人間生活を支えているのである.