1-10. 惑星科学と測地学
京都大学大学院理学研究科 福田洋一
測地学の目的は, 「地球の形状と重力場, 地球回転, およびその時間的変化を知ること」であり, 関連した研究分野は, 理論から計測, 応用技術まで極めて多岐にわたっている. ところで, 上記の「測地学の目的」の研究対象を「地球」から「月」や「惑星」に置き換えるだけで, 現在の測地学は, そのまま他の天体の研究に適用することができるであろう. 実際, 我が国のSELENE(Selenological and Engineering Explorer)計画では, 月を周回する衛星軌道を追跡することで月の重力場を計測し, また, レーザー高度計により月表面の地形マッピングを行う予定で, これらは, 地球で実施された衛星重力, レーザー高度計ミッションの延長上にあるものと考えることができる. また, このようにして得られる重力と地形との関係から, アイソスタシーがどの程度成り立っているかを調べることで, 月内部の弾性的, 粘性的性質などを推測することも可能であり, これも地球の内部構造の研究に用いられてきた手法の応用と言えよう.
月の潮汐や極運動が月の内部構造をどのように反映しているのか, 大気や水のない月では, 地球より現象の把握はむしろ容易かもしれないし, そこで得られた結果は, 地球の研究にフィードバックすることも可能かもしれない. 惑星についても同様で, 自転速度の60倍にも及ぶ「スーパーローテーション」と呼ばれる暴風が吹いている金星や, 薄い大気を持ち地球と同じような自転をしている火星など, それぞれ異なった条件での惑星回転, 惑星重力場の研究は, 地球上での研究の延長として, これからの測地学にとって格好の研究対象と言えるであろう.
未開の地に足を踏み入れたときにまず為すべきことは, 自分の位置をしっかり把握することであり, 測地学はそのような目的のために発展してきたと言えよう. 次の世代, 惑星を対象とした測地学が同様の道筋をたどり発展していくであろうことは, ごく自然な成り行きであろう.