セッション3報告
宇宙測地技術によるアジア太平洋地域の地殻変動に関する新展望
セッション3はシンポジウム3日目,10月20日(水)の午前・午後を通しA会場(CR300)で口頭発表,同日夕方に1階大ホールでポスター発表が行われた.
午前の口頭発表は11件,キャンセルはなかった.参加者は約80-100名ほどであった.
最初はドイツのMichelによる招待講演(03-01)で,ヨーロッパの複数の国が共同で広く東南アジアに展開したGEODYSSEA (GEODYnamics of South and South East Asia)プロジェクトを紹介し,それから導かれたプレート運動,ブロック運動について解説した.
これに引き続きReinhart(03-02)は,おもに測地学的観点からGEODYSSEAの水平速度場を議論した.これ以後の多くの講演においてもGEODYSSEAで得られたGPSデータおよび水平速度場は繰り返し引用された.以後,講演の主題はアジア太平洋地域GPSキャンペーンのデータ処理(03-03),パプアニューギニア周辺のプレート運動(03-04),プレート3重会合点周辺の地震活動と地殻変動(03-05,03-06),ミンダナオ-スラウェシ周辺のブロック運動(03-07),フィリピンの活断層と地殻変動(03-08,03-09,03-10),台湾の活構造と地殻変動03-11)と,対象地域が徐々に北上しながら午前中のセッションを終えた.
GPS観測に基づいたプレート相対運動と境界域の地殻変動に関する活発な議論が展開されたが,東南アジアの複雑な変動の場を明らかにすることは地球科学的興味だけでなく災害軽減の点からも重要であること,それにもかかわらず未だ観測態勢は十分ではないこと,GEODYSSEAに代表される国際協力が今後とも推進される必要があること,等が改めて認識された.
午後の口頭発表は9件でキャンセルが1件(03-17)あった.
参加者は約60-80名と午前より少なめであった.
講演内容は,沖縄トラフの拡大に関する数値実験(03-12),西南日本における島弧-島弧衝突(03-13),中部日本における新プレート境界の可能性(03-14),チベット高原におけるインド-ユーラシア衝突(03-15),北チベットにおける断層運動(03-16),中国における水平速度場(03-18),モンゴルにおけるGPS観測状況(03-19),バイカル湖周辺の拡大と数値モデル(03-20),オホーツク海-日本海周辺のプレート運動(03-21),と続いた.ユーラシア大陸内のGPS観測と日本国内のそれが同じセッションで取り上げられたが,両者の観測密度の大きな落差がきわめて印象的であった.
ポスター発表は,アジア太平洋地域のVLBI実験(03-22P),西太平洋GPS連続観測網(
03-23P),マリアナトラフにおける背弧拡大(03-24P),台湾東部プレート境界域の変
動(03-27P),中国大陸-台湾海峡のGPS観測(03-29P),中国内部の複数のGPS観測網の
結合(03-33P),東南アジアの反時計回り回転(03-34P)に関するものであった.いずれ
もポスター前で活発な質疑応答が展開された.申し込み12件のうち5件がキャンセル
された.
このセッションはアジア太平洋地域の地殻変動を対象としたが,島弧周辺でのプレートの沈み込みや背弧拡大から大陸内部でのプレート間衝突に至るまで,扱ったテーマは多方面にわたった.この地域の地球科学的多様性が実感されて興味深かった反面,一部の参加者にとって議論が集約できずやや散漫になった可能性もある.セッションの性格上アジアからの参加者が多数あり,会場での交流を通じて,今後の研究協力の推進に当セッションが大きく寄与したものと考える.
田部井隆雄