GPS気象学に関連する研究発表は20日と21日の2日にわたって行われ、20日は低軌道衛星搭載の受信機による掩蔽観測法が、21日は地上設置の受信機による大気遅延量の観測が取り上げられた。
Kuo(UCAR)は、UCARとJPLが推進したGPS気象学(GPS/MET)プロジェクトの成果を報告した。掩蔽観測から得られた気温・水蒸気のプロファイルをECMWFやNCEP/NCARの再解析値並びにラジオゾンデ観測と比較し、NCEP/NCAR再解析よりもECMWF再解析の方がGPS観測データにより近いことが示され、ECMWF再解析の品質の高さを改めて示す結果となった。 また、後継プロジェクトである「気象・電離層・気候のための衛星観測網(COSMIC)」計画の概容を説明し、GPS受信衛星の打ち上げは2003年10月に予定されていることを述べた。 松村(気象庁)は合衆国の全球数値予報モデルにレイトレーシングを用いた変分法でGPS掩蔽観測による偏角の値ををデータ同化する方法を開発したことを示した。 この方法は偏角を屈折率や気温に変換する事なしに数値予報に取り込むことができる点で優れている。 Zuffada(JPL)はダウンルッキング法の紹介を行った。 これは高い山の上、あるいは気球に搭載したGPS受信機で掩蔽観測を行い、受信機よりも低い高度の屈折率鉛直分布を推定する方法である。 尚、彼女はセッション7では高い山の上などに設置したGPS受信機でGPS信号の海面反射波を測定し、海面高や海面風速を推定する手法について発表しており、新たな手法の開発に積極的である。
ノッティンガム大学が中心となってヨーロッパの幾つかの国の共同で進めているWAVEFRONTプロジェクト、やはりヨーロッパで行われているMAGICプロジェクトがそれぞれPenna(ノッティンガム大学)、Calais(CNRS、フランス)によって紹介され、成果が報告された。 WARE(UCAR)は、合衆国だけでなく、世界中の大学などのGPS受信機のデータをリアルタイムで収集するSuomiNetの計画について述べ、各国の参加を呼びかけた。 Pennaはイギリス気象局において準リアルタイムのGPSデータを数値予報に用いる計画があることを報告した。Ruffini(IEEC、スペイン)は気球に搭載したGPS受信機で海面からの反射波を受信して波の高さを観測する技術について発表した。 これはセッション7のZufaddaの発表と同じ原理である。
主に測地学の観点から、観測の精度と誤差の原因についての発表が行われた。 異なる測器による可降水量に違いがあるという報告だけではなく、その誤差は何が原因かということまで追求した研究の発表が行われた。 誤差の原因として潮汐加重による誤差、受信機の位置の高度差による誤差、大気遅延量とその勾配などが挙げられた。
主に気象学の観点から、GPS可降水量の時間的空間的変動の研究に関して、台風、降雪などの事例で可降水量の水平分布に関する発表が行われた。 天頂方向の値に基づく研究が大半を占めたが、島田(防災科技研)はGPS観測値から解析された大気遅延量の「勾配」と気象現象との対応について報告した。 西風が持続してして吹いていた日、伊豆半島の網代では西向きの、その東海上の初島では東向きの大気遅延量の勾配がほぼ1日定常的に観測された。 この日の大気の状況を高分解能数値予報モデルで再現したところ、伊豆半島の山岳が励起した山岳波による大気遅延量の勾配の水平スケールがGPSの観測とよく一致することを示した。 このサブセッションでは日本の研究者の発表が多くを占めたが、Falvey(ヴィクトリア大学、ニュージーランド)はニュージーランドにおけるGPSを用いた局地的降水の研究、Liou(国立中央大学、台湾)は台風が台湾に接近した事例でGPS可降水量の変化について報告した。
SAR観測データから推定する水蒸気に関して2件の発表があった。 大塚(農業研究センター)は山岳の風下側でSARで観測された遅延量の分布が、高分解能数値予報モデルで再現された山岳波による水蒸気分布とよく一致することを示した。 Wey(テキサス大学)はGPS観測網で観測された水蒸気分布でSARを補正する方法について述べた。
GPSの可降水量を数値予報モデルの初期値に取り込み、予報精度を向上させる研究について2件の報告があった。Smith(FSL、合衆国)は1997年11月から約2年間にわたって行われている60kmの格子のモデルでの同化実験についての報告を行った。 相対湿度の予報精度が良くなったこと、降水の検出率が向上して統計的に雨の予報が良くなったことを示した。万納寺(気象庁)は10kmの分解能のモデルを用いて豪雨の場合について予報実験を行い、予想が良くなる事例を示した。
Jonsson(スタンフォード大)とEmardson(JPL)はGPS観測網によって得られた大気遅延量の時系列を比較して大気の風向風速を推定する手法を発表した。 Jonssonは大気遅延量の水平傾度を用いるとGPSの座標値の精度が向上することも示した(サブセッション2-3で発表した方が良かったかもしれない)。 Flores(IEEE)はOnsalaに おける観測にトモグラフィの方法を適用する事により、従来の方法では観測できなかった小さなスケールの前線の通過に伴う水蒸気の水平方向の大きな傾度を導出できることを示した。 瀬古(気象研)はGPSの視線方向の遅延量、レーダーで観測した降水システムの移動速度、周囲のラジオゾンデの観測値を統合し、ある期間で降水システムは定常であるという仮定のもとに水蒸気の3次元分布を推定した。 その結果、梅雨期の降水システムにおいて乾いた空気が侵入していることを導き出した。 GPSトモグラフィ単独ではGPS観測点の水平間隔と同程度の鉛直分可能しか得られないのに対し、GPSとそのほか観測を組み合わせる事より、20-30kmの間隔のGPS観測点のデータから1-2kmの鉛直分解能の大気の3次元構造を導いた点で革新的である。
GPS掩蔽観測は、従来衛星観測とは縁の薄かった国々でも容易に参入できるほど廉価で簡便な観測法であり、その一方で優れた観測精度や測器差が生じないという測定原理の優位性がある。このため掩蔽観測は今後益々増加することが予想される。 実際、ヨーロッパでは新現業極軌道衛星METOPにGPS掩蔽測器を搭載することを決め、日本の宇宙開発事業団(NASDA)も複数の地球観測衛星に搭載する方向で検討に入っている。 既に打ち上げが決まっている合衆国のNPOESSやCOSMICと組み合わせると、全球を均質高密度でカバーする強力な観測システムとなるであろう。
また、GPS掩蔽観測法を応用したダウンルッキング法によって大気下層の屈折率や海面高・海面風速を推定する手法の開発も進められており、この方法の今後の発展も期待できる。
近年いくつかの研究プロジェクトが進行しているが、GPS可降水量と他の方法で観測した可降水量を比較するだけの時代は終わり、GPS可降水量をどのように使うかという方向に研究が進んでいる。天頂方向の大気遅延量だけでなくその水平傾度や三次元分布、さらには水蒸気の輸送媒体としての大気の風向風速まで導出する手法が幾つか紹介され、GPS観測の応用が広がっている。
萬納寺信崇
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