目次 | 第3部 応用編 | プレート間カップリング
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1.プレートテクトニクス 2.地震サイクル 3.横ずれ境界における相互作用 4.沈み込み帯における相互作用 5.関東地方のカップリング 6.アスペリティと固着域 7.用語

プレート間カップリング − プレート間カップリングを表す用語

 プレート間カップリングを議論する際に,「固着」や「カップリング」といった単語が頻繁に使われているが,これらの言葉の使い方には十分注意する必要がある.lockedやcoupledといった用語はともにプレート境界が固着しているという意味で用いられることが多いが,Wang et al. (2003)はこれらの用語を厳密に区別すべきであると考え,以下のように定義している.

 Locked  物性や応力に関係なく断層がすべっていない状態.
 Coupled  すべりの有無に関係なく断層の剪断応力がゼロでない状態.
 Decoupled  すべりの有無に関係なく断層の剪断応力がゼロの状態.

これらの説明から,運動学的に断層がずれていない状態をlockedと呼ぶのに対し,coupledは断層面を通して応力が伝わっているかどうかという力学的な状態を表す用語として区別される.厄介なことに,lockedだがdecoupledな状態やcoupledだがlockedでない状態が存在するので注意する必要がある.また,現時点では,lockedとcoupledを区別した日本語の訳語が確立していないので,プレート境界の相互作用に言及する時には,それが運動学的な意味か力学的な意味かを厳密に区別しなければならない.

 地殻変動データから推定されるプレート間カップリングは,断層の運動学的な固着状況を推定した結果である.従って,プレート運動速度と同程度のすべり欠損が推定される場所はlockedであり,すべり欠損が小さい場所はunlocked領域である.しかし,これらは力学的な固着状況とは必ずしも一対一に対応していない.

鷺谷威


参考文献
Wang, K., R. Wells, S. Mazzotti, R. D. Hyndman, and T. Sagiya(2003):A revised dislocation model of the Cascadia subduction zone, J. Geophys. Res., 108, 2009, doi:10.1029/2001JB001227.



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