プレート沈み込み帯における非地震時の地殻変動を表すモデルでは,海洋プレートがプレート境界面の固着を伴わずにずるずると定常的に沈み込むのを基本状態と考える.プレート境界の固着を表すために,プレート境界面の固着域に仮想的な正断層すべり(すべり欠損)を補正項として加えることで地殻変動が表現できる(Savage, 1983).さらに,基本状態である定常的な沈み込みが有意な地殻変動を伴わないと仮定すれば,補正項であるすべり欠損だけで地表の地殻変動を説明できる.これがいわゆるすべり欠損モデルである(図4).すべり欠損モデルは扱いが簡単なことから,非地震時の地殻変動からプレート境界の固着域や固着の度合いを推定する目的で広く利用されている.
プレート境界が完全に固着している場合,推定されるすべり欠損ベクトルは理想的にはプレートの相対運動ベクトルと同じ大きさで逆を向く.すなわち,沈み込み帯のプレート境界では正断層型のすべりが推定されることになる.このためすべり欠損はしばしば「バックスリップ」と呼ばれる.一方,すべり欠損がゼロになる場合やプレート相対運動と同じ向きのすべりが推定されることもある.前者の場合はプレート境界がプレート運動速度でずれていることになり,後者の場合はプレート運動速度よりも速い速度でプレート境界がずれていることになる.この後者の場合を「フォワードスリップ」と呼ぶが,大地震の後に余効すべり(アフタースリップ)が起きている場合に推定されることが多い.このようにすべり欠損の推定結果を物理的に解釈する場合には,常に定常すべり成分と足し合わせて考えることが必要である.
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図4. すべり欠損モデルの概念図.
参考文献
Savage, J.C.(1983):A dislocation model of strain accumulation and release at a subduction zone, J. Geophys. Res., 88, 4984-4996.
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