目次 | 第3部 応用編 | プレート間カップリング
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1.プレートテクトニクス 2.地震サイクル 3.横ずれ境界における相互作用 4.沈み込み帯における相互作用 5.関東地方のカップリング 6.アスペリティと固着域 7.用語

プレート間カップリング − 関東地方のプレート間カップリング

 日本列島は太平洋プレートフィリピン海プレートが沈み込む場所に位置していることに加え,明治時代に始まった三角測量水準測量や最近のGPS連続観測のデータが豊富にあることから,測地データを用いたプレート間カップリングの解析が盛んに行われてきた.

 図5はGPSにより得られた関東地方の地殻変動速度分布と,このデータに基づいて相模トラフから南関東の下に沈み込むフィリピン海プレート上面のすべり欠損分布を推定した結果である(Sagiya, 2004).すべり欠損が大きい領域の北半分は1923年関東地震の震源域に相当しており,関東地震から70年以上が経過して,次の地震へ向けプレート境界の応力が蓄積している様子が分かる.房総半島先端付近から南側にもすべり欠損の大きい領域が見られるが,将来ここを震源域とする地震が起きると,1923年とは異なるタイプの地震となる可能性もある.

 この解析結果から,プレート境界の固着域は関東地方では深さ20km程度までと推定される.プレート境界における固着の強さは温度に依存すると考えられており,固着域の下限はプレート境界の温度で350℃程度に相当する.南海トラフから沈み込むフィリピン海プレートは比較的新しく温度が高いため,固着域の下限は30km程度であるが,より古くて冷たい太平洋プレートが沈み込む東北地方では固着域の下限は50km程度と深くなる.一方,九州から南に連なる琉球海溝沿いでは海溝向きの地殻変動が観測されており,プレート境界の固着が見られない.プレート間の固着は単に深さや温度に依存するだけでなく,プレート境界の形状や沈み込む海洋プレートに積もった堆積物や海山の有無などにも影響されているようである.


図5. GPS連続観測データから推定した関東地方のすべり欠損分布(Sagiya, 2004).

参考文献
Sagiya, T.(2004):Interplate coupling in the Kanto District, central Japan, and the Boso Silent earthquake in May 1996, PAGEOPH, 161, 2601-2616.



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