目次 | 第3部 応用編 | SLR
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1.SLRって何 2.SLRの観測装置 3.SLR観測を行う人工衛星,ILRS 4.SLRの解析 5.何がわかるのか

SLR − SLRって何

 人工衛星は,現代の測地学や地球物理学において重要な役割を果たしている.

 例えば,グローバルな重力場やその変化を研究するには人工衛星が必要不可欠である.人工衛星は,地球の重力場の中を運動するテストパーティクルであるから,衛星の軌道を精密に観測することによって地球の重力場とその変化を知ることができるのである.また,アルティメーター衛星は海面の形状を測定し,ジオイドや海洋循環の研究に用いられているが,このためには,アルティメーター衛星の精密な軌道が必要である.

 このように,人工衛星の精密な軌道を必要とする研究分野は数多いが,衛星の軌道を地上からモニターする一番精度の高い方法が,人工衛星レーザー測距SLR:Satellite Laser Ranging)である.

 SLRは,地上の観測局から逆反射プリズム(入射方向に光を反射する特殊なプリズム.立方体の頂点を切り取った形をしていることから,コーナーキューブリフレクター(Corner Cube Reflector)とも呼ばれる)を搭載している人工衛星に向かってパルスレーザー光を発射し,衛星からの反射光を同一の観測局で捕らえることにより衛星までの光の往復時間(距離)を精密に測定する技術である(図1図2, Seeber, 2003).

 SLRは,人工衛星が打ち上げられてまもなく1960年代前半から構想が練られ,1965年にEXPLORER-B衛星に対して初めてのSLR観測が行われた.当時の測距精度は1m以上であった.その後,レーザー技術が発達し,パルス幅が非常に狭いレーザー光を安定して発振させることが可能となり,また受光センサーをはじめとする受信系の高速化により測距精度が向上した.現在では,内部誤差1〜2mmで衛星までの距離が測定できる.

 SLRの長所としては,1)観測精度が高いこと,2)光を用いるため空気中の水蒸気の影響をほとんど受けないこと,3)観測装置のメカニカルな中心が明瞭で測定される観測量の幾何学的な意味が明確であること,4)原理が単純で衛星の運用に左右されず安定したデータが得られること,5)観測装置の位置が地球の重心に基づいて正確に決定できること,6)20年以上にわたる観測データが蓄積されており地球の長期的な変動を捉えるのに適していること,などがあげられる.一方,短所としては,1)観測局の上空が晴れていないと観測できないこと,2)地上の観測装置が大型になること,3)現在の観測局の分布に偏りがあること,などがある.

 SLRと同様な原理で月までの距離を測定するのが月レーザー測距LLR:Lunar Laser Ranging)である.アポロ11号などが設置した月面上のレーザー逆反射プリズム(図3)までの距離を地上からレーザー光によって測定するのである.月レーザー測距により,月までの距離(約38万km)が1〜3cm(10-10)の精度で測定できることは驚くべきことである.


図1.情報通信研究機構宇宙光通信地上センターのレーザー測距装置(東京都小金井市,情報通信研究機構提供).

図2.第五管区海上保安本部下里水路観測所のレーザー測距装置(和歌山県那智勝浦町,海上保安庁提供).

図3.アポロ11号が静かの海に設置した逆反射プリズム.(ILRSのホームページより)

参考文献
Seeber, G.(2003):Satellite Geodesy, 2nd. Ed., Walter de Gruyter, Berlin, New York.




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