目次 | 第3部 応用編 | SLR
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1.SLRって何 2.SLRの観測装置 3.SLR観測を行う人工衛星,ILRS 4.SLRの解析 5.何がわかるのか

SLR − SLRから何がわかるのか

 SLRから何がわかるのであろうか(Noomen et al., 2003, Pavlis and Schreiber, 2001).

 まず,地球の重力場とその変動がわかる.一般に,重力場モデルを作成する場合は,SLRの他に衛星の電波観測などのデータを用いるが(重力場を知るためには,様々な軌道半径や軌道傾斜角の衛星を使うことが有効),その中でSLRの貢献度はとても大きい.特に,J 2などの低次項の長期的な変化を推定するためには,20年以上蓄積されたSLRの観測データが極めて有効である(図7).また,現在CHAMPGRACEなどの衛星重力ミッションが進められているが,SLRはこれらのミッション期間を含む長期にわたるレファレンスを与えている.

 LAGEOSのデータ解析から,G M はppb のオーダーで精密に求められている(Smith et al., 2000).ケプラーの第3法則(n 2a 3=G M n は衛星の平均的な公転角速度,a は軌道長半径)から,G M に誤差があると,a に系統誤差が生じてしまうことがわかる.人工衛星から地球の大きさを決めるためには,正確なG M を知る必要がある.

 SLRから地球の重心を原点とした観測点のabsoluteな座標とその変化が決定できる.グローバルな観測ネットワークの各観測点の座標とその変化は地球基準座標系を与える.また,観測点の位置変化からプレート運動などが検出できる.測地学研究に広く用いられている地球基準座標系であるITRF(International Terrestrial Reference Frame)の原点(地球の重心)はSLRのみから決められている.

 大気,海洋,陸水などが地球上を移動することによって,地球の重心と固体地球の中心の位置関係は変動する.例えば,大気や海洋によって約1mm,陸水によって約3mm,この位置関係が季節的に変化すると見積もられている.SLRでは地球の重心に基づく観測局の位置が得られるので,幾何学的あるいは力学的にこの変動を捉えることができる.

 20年以上にわたるSLRデータを用いると,長期にわたる重力場の変動を捉えることができる.潮汐による重力場変動は地球内部の性質を反映しており,SLRから地球内部構造に関する情報を得ることができる.

 SLRは,アルティメーター衛星など多くの地球観測衛星,航行衛星の軌道決定と検証に広く用いられている.験潮とSLRを組み合わせることで,アルティメーターデータの直接的な検証が行える.また,GPS衛星やGLONASS衛星の軌道の検証にも用いられている.

 LLRからわかることは何であろうか.

 まず,一般相対性理論の検証が挙げられる.LLRは等価原理(慣性質量と重力質量が等しいこと)を最も高い精度で検証している.また,重力定数G の時間変化の上限も評価されている.この他,LLRから月の暦の検証,月の質量の決定( 10-8の精度),月の慣性モーメントの決定などが行える.月の慣性モーメントとJ 2を組み合わせると,月の内部構造を知ることができる.

仙石新


図7.SLRから求めた地球のJ 2(×10-10 )の時間変化.J 2は長期的に減少している(地球は丸くなっている)一方,1998年に大きな変化が現れていることがわかる.青,緑,紫の線は,海水,氷など地球物理学的シグナルから J 2の変化を推定したもの.(Cox and Chao, 2002, NASA Webサイトより)

参考文献
Pavlis E. C. and U. Schreiber eds.(2001):Evolving Geodesy, Special Issue of Surveys in Geophysics, Vol. 22, Nos. 5-6.
Noomen, R., S. Klosko, C. Noll, and M. Pearlman eds.(2003):13th International Workshop on Laser Ranging, Proceedings from the Science Session and full Proceedings CD-ROM.
Cox, C. and B. F. Chao(2002):Detection of large-scale mass redistribution in the terrestrial system since 1998, Science, vol. 297, pp 831.
Smith, D. E., R. Kolenkiewicz, P. J. Dunn, and M. H. Torrence(2000):Earth scale below a part per billion from Satellite Laser Ranging, Geodesy beyond 2000, IAG Symposia, vol. 121, 3-12, Springer-Verlag, Berlin, Heidelberg.


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