L-L SSTの衛星間の距離をうんと短くして1mぐらいまでに縮めてしまったとしよう.そうすると,2つの衛星間の距離測定のかわりに,2つのテスト・マスの距離を精密に測ってやれば,L-L SSTと同じ原理で重力場の測定が可能なはずである.実は,これは重力偏差計の原理そのもので,無重力状態では重力は測れないが,重力の差,すなわち重力勾配を測定することは可能である.
衛星に搭載される重力偏差計(gradiometer)では,重力ポテンシャルV の6個の2階微分成分,V xx,V yy,V zz,V xy,V xz,V yzのすべてが計測されるように設計されており,これらを組み合わせることにより,重力場と非重力場成分の加速度を分離することも可能である.逆に,L-L SSTでは,重力偏差のうち,衛星の軌道に沿った1つの成分しか測定していないので,非重力場成分の補正のために別に加速度計が必要であるとも言える.
GOCE(Gravity field and Ocean Circulation Explorer)は,重力偏差計とH-L SSTとによる静的な重力場の改良に重点を置いた重力ミッションであり,空間スケール100km(〜80km)で,重力異常にして1mGal,ジオイド高にして1cmの精度を目指している.GOCEに期待される具体的な成果としては,衛星アルティメトリィとの組み合わせによる力学的海面形状の決定があり,さまざまな海洋学的な研究にとって十分な精度があると考えられている.また,陸上では,高精度なジオイド決定により,現在,各国で独自に設定されている高さ基準を統一し,新たなグローバルな基準(例えば,過去にさかのぼって検潮データから海水準変動を検出しようとすると,このことは本質的に重要である)を設定することにも大きく寄与するものと期待されている.さらに,従来,地上重力,海上重力,あるいは航空重力測定では困難であった空間波長100km程度より長波長領域での重力異常の精度向上は,大陸の地殻構造,地球内部の密度構造など,固体地球物理の研究に大きく寄与するものである.しかしながら,GOCEは,感度と空間分解能を挙げるために衛星の高度は300km以下と低く設定されており,そのため寿命は18ヶ月と短く,長期間の地球の環境監視には必ずしも適していない.
重力偏差計では,L-L SSTにくらべるとテスト・マスの距離が極端に短いため,その分,高感度な検出センサーが必要である.従来型の重力偏差計では,GOCEの感度がほぼ限界と見られており,さらに高感度なセンサーを実現するため,すでに1980年代より超伝導重力偏差計の開発が進められている.さらに,将来,原子干渉計など,新しい技術が利用できるようになれば,双子衛星を必要としない高感度な衛星重力観測も実現するようになるかもしれない.
*注:GOCEは2009年3月に打ち上げられた.
|