人工衛星は飛んでいるのではなく地球に向かって落ち続けているのだと言われるが,スペース・シャトルなどの映像を見るまでもなく,衛星の内部が無重力状態にあるということは良く知られている.無重力状態の衛星で重力を測るということは,奇異に感じられるかもしれないが,衛星による重力場測定は,1957年に歴史上初の人工衛星・スプートニクが打ち上げられた直後から行われていたことである.
もし地球を全質量が重心にある質点と仮定すると,衛星の軌道はケプラーの法則に従い,面積速度一定の楕円を描くことになるが,現実の衛星軌道は地球の重力場の揺らぎを反映し,常に少しずつ変化している.逆に,人工衛星の軌道の変化を観測すれば,地球の重力場が測定できるというわけで,「衛星による」という言葉の意味は,衛星そのものを重力場測定のセンサーとして用いるということである. 衛星の軌道変化の観測,すなわち,衛星の軌道を追跡する方法として,歴史的には,大口径の衛星追跡カメラが用いられた.これは,地球の自転運動に同期させた追跡カメラで,恒星をバックに衛星の軌道を乾板上に焼き付けるというものである.初期の衛星軌道追跡データの解析から,地球の形が楕円から外れた西洋梨型をしていることを発見した古在由秀の研究は有名である.
1970年代になり,衛星の軌道追跡にSLR(Satellite Laser Ranging)が用いられるようになり,軌道追跡の精度は飛躍的に向上した.その後,SLRによる軌道追跡データはさまざま衛星について蓄積されており,従来の地球の重力モデル(例えばEGM96)の低次(〜数10次)の球面調和関数係数は,このような過去に蓄積された地上からの衛星軌道追跡データを元に計算されたものである.
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図1. 衛星の軌道追跡と重力場決定のイメージ.背景の地球は,CHAMPによるEIGEN-CG01C Geoidである(CHAMP Webサイトより).
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