衛星による重力場の測定としては,このほかに,Low Low Satellite to Satellite Tracking(L-L SST)と呼ばれる方法がある.L-L SSTでは,低高度(400-500km)の同一軌道に2つの衛星を数100kmの間隔で打ち上げ,互いの距離の時間変化(range rate),すなわち速度の測定を行う.この時,エネルギー保存則により,重力ポテンシャルV による位置エネルギーと運動エネルギーとの和は一定であるので,速度変化として重力場の変化を測定することができる.直感的には,図3に示したジェットコースターを思い浮かべればよいであろう.
GRACEでは,range rateの測定にマイクロ波のレーダー・リンクを用いμm/secより良い測定精度が得られ,時間分解能1ヶ月,空間スケール数1000km程度で,地上での水厚変化に換算してmmオーダーの変化が検出できると言われている.これは,グローバルな水循環,氷床変動,海水準変動,ポストグレーシャルリバウンドなど,従来の常識では考えられなかった地球変動モニターといった新しい応用分野を切り開くことを意味している.現在,GRACEのデータを用いた検証実験が進められており,静的な重力場では従来のEGM96モデルより2桁以上の精度向上が,また,時間変動成分についても,南米のアマゾン川周辺の陸水モデルとの良い一致などが報告されている(Tapley et al., 2004).
GRACEの衛星間距離測定がマイクロ波レーダーを用いているのに対して,GRACEの後続ミッションGRACE-FO(Follow On)では,レーザー干渉計を用いた衛星間距離測定が計画されている.GRACE-FOの基本的な設計としては,高度約600kmの極軌道,衛星の間隔50-100km,100pm〜1nmオーダーの衛星間距離測定精度で,寿命は,最低でも5年である.この計画は,技術的には衛星による重力波検出計画LISAと共通する部分(高安定レーザー,イナーシャ・システム,ドラッグフリーコントロール等)を多く持っており,そのシステム検証の意味もある.GRACE-FOでは,空間波長数10kmで水の厚さにして1cm程度の変動が重力変化として検出可能になると言われており,この計画が実現した際には,衛星重力観測は,地球環境モニターでも中心的な役割を果たすようになることであろう.
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