SLRは現在でも高精度な軌道追跡手段として重要な役割を果たしているが,地上に設置された限られた数の追跡局だけからは,衛星の軌道を連続的に追跡することは不可能であった.ところが,1990年代以降,衛星の軌道追跡にもGPSが利用されるようになり,事情が一変した.
2000年7月に打ち上げられたCHAMP(CHAllenging Minisatellite Payload)は,衛星に搭載したGPS受信機で精密軌道決定を行っており,歴史上初めて,衛星そのものによる重力場測定を可能とした.CHAMPで採用されたこのような重力場の測定方法は,高高度のGPS衛星(高度20000km)から高度数100kmの低軌道衛星(LEO:Low Earth Orbiter)を追跡することから,High Low Satellite to Satellite Tracking(H-L SST)と呼ばれている(図2).H-L SSTでは,落下する衛星の位置をGPSで正確に決めるということであるので,衛星を落体に用いた自由落下による絶対重力測定を行っているようなものである.
衛星による重力場測定で問題となるのは,残留大気による摩擦や太陽風など,地球の重力場以外の影響である.そのため,CHAMPでは,新たに開発された高感度の加速度計が搭載され,非重力場加速度成分の補正が行われている.CHAMPは,重力場決定における直接的な寄与としてはH-L SSTによる低次(長波長)の球関数係数の決定に留まるが,次のページGRACEのL-L(Low-Low)SSTやGOCEのGradiometer(重力偏差計)でもH-L SSTは併用されるし,また,非重力場補正用の加速度計の実地検証の意味でも,その後の重力ミッションの実現に重要な役割を果たした.
CHAMPの目的の1つに,海面高度計衛星であるJason-1の軌道決定のための重力モデルの改良があった.Jason-1では,最終的な海面高度として2.5cmの精度を目指しているが,これを実現するためにはCHAMPのデータを取り込んだ新しい重力モデルによる高精度な軌道決定が不可欠である.現在,CHAMPのデータを取り入れた幾つかの重力モデルが発表されているが,これらはすでに,過去30年近くにわたり蓄積された地上からの衛星追跡データを用いた重力モデルの精度を超えている.
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図2. H-L SSTのイメージ(CHAMPのWebサイトより).
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