目次 | 第3部 応用編 | SAR地殻変動
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1.干渉SARとは 2.干渉SARの原理 3.干渉画像 4.波長による干渉性の違い 5.干渉SARの誤差要因 6.干渉SARで捉えた地殻変動(1) 7.干渉SARで捉えた地殻変動(2) 8.干渉SAR解析の応用 -2.5次元観測-

SAR地殻変動 − 干渉SARで捉えた地殻変動(2) 岩手山の火山活動

 日本列島には108もの活火山が存在する.その多くは陸域にあり,ひとたび火山活動が活発化すれば社会活動に与える影響は非常に大きい.火山活動による被害を低減させるために火山活動をモニターすることが重要であるが,火山の地下のマグマの動きを直接見ることはできない.しかし, 地殻変動を観測することによって地下のマグマの活動を推定することができる.

 現在,全国に約1200点ものGPS連続観測点(GEONET)が設置されており,日々の変動がモニターされている.しかし観測点間隔は平均して約25kmであり,火山活動に伴う地殻変動の空間的広がりと比べると観測点の密度は十分ではない.これに対し,干渉SARでは地殻変動を面的に捉えることができるため,GPS観測からは得られない短い空間波長の地殻変動を検出することができる.また,GPS光波測距などの測地技術では,現地に観測機器を設置する必要があるが,干渉SARでは現地に観測機器を設置する必要がないため,火口近辺など現地に近づくことができないような場所でも,地殻変動を捉えることができるという利点もある.

 火山活動を干渉SARで捉えた例として,東北地方の岩手山の例を取り上げる.岩手山では1998年に火山性地震の発生数が急激に増加し,噴火の可能性が懸念された.そのため,さまざまな研究機関によってGPSや重力観測などの各種観測が行われた.JERS-1によるSAR観測も実施され,活動活発化前に取得されていたデータも用いた干渉SAR解析により,活動活発化前からの地殻変動が明らかになった.

 岩手山の活動が活発化した初期の1998年4月頃までは顕著な地殻変動は見られないが(図9a),その後1998年4月から6月にかけて,岩手山西側で最大4cm程度の変位が捉えられている(図9d).検出された変位は衛星に近づく向きの変位であり,この領域が隆起したことを示している.この隆起は,岩手山西側の地下で熱水などの流体の体積増加が起こったことによるものと推定されている(Nishimura et al., 2001).6月以降には岩手山西側の変位がさらに大きくなり(図9bおよび9e),火山活動の活発化と共に地下の流体の体積増加が進んだことがわかる.この後1998年9月3日には,岩手山西麓でM6.1の地震が発生し,地表にほぼ南北に伸びる地表地震断層が現れた.この断層の西側が東側に対して東向きに変位し隆起したが,それと調和的な位相変化が干渉SARで捉えられている(図9cおよび9f).干渉SARで捉えられた地殻変動から,岩手山の火山活動活発化とともに山体西側の地下で流体だまりの体積が増加し,その体積増加による応力変化によって地震が引き起こされたと推定されている(Nishimura et al., 2001).


図9.岩手山の火山活動に伴う地殻変動を示す干渉SAR画像.カラースケールの1周が1.8cmの変位に相当する.それぞれ以下の2時期間の変動を示している.(a)1996年4月12日〜1998年4月30日,(b)1998年4月14日〜7月11日,(c)1998年8月24日〜10月7日,(d)1998年4月30日〜6月13日,(e)1998年4月30日〜7月27日,(f)1997年11月5日〜1998年9月9日.

参考文献
Nishimura, T., S. Fujiwara, M. Murakami, M. Tobita, H. Nakagawa, T. Sagiya, and T. Tada(2001):The M6.1 Earthquake triggered by volcanic inflation of Iwate volcano, northern Japan, observed by satellite radar interferometry, Geophysical Research Letters, 28, 635-638.



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