GPS気象学には,今まで紹介した地上型GPS気象学以外に,低軌道衛星(LEO)等に搭載したGPS受信機のデータを利用して大気の温度構造等を求める,宇宙型GPS気象学がある.
この方法では,LEOから見てGPS衛星が地球によって掩蔽される際に,大気をかすめて伝播してくるGPSの電波をLEOで受信する(図4).この時,衛星の移動とともに,伝搬経路の接線高度が下がっていくため,高い鉛直分解能で大気の屈折率の分布を推定できる.データの解析方法は地上型GPS気象学よりも複雑で,LEOの位置決定,レイトレーシング等が含まれる[9].
米国では,1995年,GPS掩蔽観測用の小型衛星を打ち上げ,GPS/MET実験を実施した[10].日本のGPS気象学プロジェクトでも,このデータの解析が行われ,世界で始めて,重力波による中層大気の温度変動の全球分布を推定すること等に成功している[11].
現在,GPS気象学の主流は,宇宙型GPS気象学に移行している.米国の大気科学大学連合(UCAR)では,台湾の宇宙機関との協力により,GPS掩蔽観測用の小型衛星(COSMIC)の打ち上げを2005年に計画している[B].
日本でも,2002年から科学技術振興調整費による「精密衛星測位による地球環境監視技術の開発」(代表者:津田敏隆教授,京都大学)が始まり,LEOによるGPS掩蔽観測や,衛星重力ミッション等によって,全球気温,雪氷,地下水等を測定する技術を開発し,地球環境変動の監視に利用する研究が進んでいる.このプロジェクトでは,富士山頂及び航空機に設置したGPS受信機によるダウンルッキング型の掩蔽観測も行われている[C]. このように,最近ではLEOを用いないGPS掩蔽法も登場し,必ずしも宇宙型GPS気象学という分類では,GPS掩蔽法の全貌を捉えることができなくなっている.
今後打ち上げられるLEOによる掩蔽観測のリアルタイム解析や,全球数値予報へのデータ同化の実現が期待される.
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図4. GPS掩蔽法([A]より引用).大気層をかすめて伝搬してくるGPS衛星の電波を,低軌道衛星(LEO)に搭載したGPS受信機で測定し,その位相変化から,大気の屈折率の鉛直プロファイルを推定する.
関連Webサイト
[A]ESAのホームページ
[B]COSMICのホームページ
COSMICプロジェクト以外にも,CHAMPによるGPS掩蔽観測結果や,米国の地上GPS観測網によるリアルタイム可降水量分布等が載っている.
[C]旧京都大学宙空電波科学研究センター(現京都大学生存圏研究所)のホームページ内「科学振興調整費研究」の説明ページ
参考文献
[9]津田敏隆(1998):GPSを用いた成層圏温度プロファイルの観測,気象研究ノート,第192号,159-178.
[10]米国のGPS/MET実験の成果
Ware, R., M.Exner, D.Feng, M.Gorbunov, K.Hardy, B.Herman, Y.Kuo, T.Meehan, W.Melbourne, C.Rocken, W.Schreiner, S.Sokokovskiy, F.Solheim, X.Zou, R.Anthes, S.Businger, and K.Tenberth (1996): GPS Sounding of the Atmosphere from Low Earth Orbit: Preliminary Results, Bulletin of the American Meteorological Society, Vol.77, No.1, 19-40.
[11]最近のGPS掩蔽法による研究成果のレビュー
Tsuda, T. and K.Hocke(2004): Application of GPS Radio Occultation Data for Studies of Atmospheric Waves in the Middle Atmosphere and Ionosphere, Journal of Meteorological Society of Japan, Vol.82, No.1B, 419-426.
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