目次 | 第3部 応用編 | GPS気象学
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1.GPSと気象学の関係 2.大気遅延量の処理 3.地上型GPS気象学 4.地上型GPS気象学の展開 5.宇宙型GPS気象学

GPS気象学 − 地上型GPS気象学の原理

 対流圏遅延は,基本的には,入射したマイクロ波によって中性の気体分子に電気双極子が誘導され,それが励起されることによって生じる(静水圧遅延).しかし,大気中のH2Oについては,分子構造の特徴から永久電気双極子を形成しているので,マイクロ波によって特に強く励起される(電子レンジの原理を思い起こすと良い).このため,水蒸気の大気中に占める比率は小さいものの,水蒸気の対流圏遅延への寄与は全体の2割程度に達することがある(湿潤遅延).地上の気圧に比例する静水圧遅延に比べ,水蒸気分布によって決まる湿潤遅延の時空間的なゆらぎは大きい.

 GPSにより得られた天頂方向の対流圏遅延量から,地上の気圧から求めた静水圧遅延を差し引けば,残るものが天頂方向の湿潤遅延量である.さらに,この天頂湿潤遅延量は,上空の気温と水蒸気分圧の鉛直分布によって決定される比例定数によって,観測点上空の可降水量(単位面積の大気の柱に含まれる水蒸気の総量)と関係付けられる.大雑把に言って,天頂湿潤遅延量1cmは,可降水量約1.5mmに相当する.

 以上の手続きにより,地上のGPS観測網のデータから,ラジオゾンデ観測に匹敵する精度(1.5mm)で,可降水量が得られるのである[前項4].

 さて,可降水量は,ある地点の上空の水蒸気の総量であるが,気象の数値予報モデルで必要なのは,水蒸気の鉛直分布である.このため,数値予報の「データ同化」手法が利用できる.データ同化とは,予報モデルの現象再現能力と観測値の両方をうまく利用して,ある瞬間に大気がどのような状態であるかを表現する手段である[5].


図3. GEONETから得られた1996年9月1日〜2日の可降水量分布([6]のp.138より引用).(a)は2日間の平均値,(b)は平均値からの偏差.日本列島を低気圧が通過していく様子を捉えている.

参考文献
[5] 野村厚,萬納寺信祟(1998):数値予報のためのGPSデータの同化手法,気象研究ノート,第192号,179-198.
[6] 岩淵哲也,内藤勲夫,萬納寺信祟,木村富士男(1998):国土地理院GPS/SINEXデータから得られた日本列島上空の可降水量の動態,気象研究ノート,第192号,133-144.



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