湖水の上にのった氷床は表面が-60℃以下,3700m下の湖水中は-2.7℃(400気圧あるので融点は0℃以下)で,温度の鉛直勾配がきつい.流動により南東方向に氷床が移動して行く段階で,冷やされた湖水が気泡を含まない透明な氷の層として氷床底面に成長しながら固着し,東岸(岸が目に見えるわけではないが)から外れていく.すなわち,13000-20000年あれば,氷床流動の過程で,湖水は入れ替わるのかもしれない.Lake Vostok自体は数百万年前から存在していると考えられているので,そのような継続的な水供給を実現するアイスダイナミクスがあるはずだが,これらの解明は今後の課題である.湖水直上氷床でのGPS速度の面的把握は,湖進化の歴史解明にも関係している.
昭和基地での合成開口レーダー受信がLake Vostok問題の解明に寄与している,と言ったら意外だろうか.昭和基地では,ERS-1/-2のタンデム受信を1996年に集中的に行い,Lake Vostokをカバーするペアを複数,得ている.JERS-1での受信も行っている.昭和基地アンテナは東南極大陸の80%を見通せるのである.
その干渉SAR解析から,上下変動(1日での差)パターンが,例えば図4のように得られている.海洋に張り出した棚氷の接地帯が1km以下の幅であるのに対して,Lake Vostokの接地帯はゆうに30kmの幅を持っていることが判る.Lake Vostokは南北に100kmの長さがあるので,潮汐ポテンシャル差により,流れが生じる.海洋潮汐の無潮位点に相当する場所もあるはずである.アイスダイナミクスの解明は始まったばかりである.
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図4. (左)1996年4月11日と12日のERS-1/-2 タンデムデータに基づく干渉SAR画像と(右)1996年4月25日と26日のERS-1/-2 タンデムデータに基づく干渉SAR画像.ともに湖面上の氷床が1日の経過で中心部が10mm低下した様子を示している.なお,右画像の右半分(散乱画像)に見られる白い筋は,雪上車が走ったルート跡である.(Wendt, A., et al. より)
参考文献
Wendt, A., Dietrich, R., Wendt, J., Fritsche, M., Lukin, V., Yuskevich, A., Kokhanov, A., Senatorov, A., Shibuya, K. and Doi, K. (2004): The response of the subglacial Lake Vostok/ Antarctica to tidal and air pressure forcing, Geophys. J. Int., submitted.
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