目次 | 第3部 応用編 | ボストーク湖
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1.ボストーク湖とは? 2.未知の微生物 3.Lake Vostokの測地学(1) 4.Lake Vostokの測地学(2)
 

ボストーク湖 − Lake Vostokの測地学(1)

 Lake Vostokの不思議に最初に出くわしたのは実は測地学者である.1969年,東ドイツ(当時)のSchneiderがボストーク基地で越冬して,アスカニアGs-11重力計を用いて,重力潮汐観測を行った.6ヶ月間観測したが,解析の結果,理論潮汐と有意にずれていることがわかった.彼のデータを今日的手法,たとえば,BAYTAP-Gによる再解析,NAO99bグローバル海洋潮汐モデルを用いた補正により残差成分を求めると,大きい順にK 1(1.91μGal),M 2(1.24μGal),O 1(0.60μGal)となる.これは,固体潮汐以外に,表面(雪面)が約20mmの全振幅で揺れていることで大体説明できる.

 2002-2003年の夏シーズン,ロシア・ドイツ・日本の3国協同研究により,Lake Vostok地域でGPS観測が実施されたが,その結果(まだ解析途上)によると,確かに,場所によって振幅は異なるが,直下が湖中央とされる地点では,全振幅40mmに及ぶ相対的上下変動が観測されている.ボストーク基地は湖中央ではなく,南東端にあるので,上下変動が減衰しているのかもしれない.

 ボストーク基地の水平流動についてはLiebert(1980)が苦労して天文測量を実施したが,殆ど注意を引かなかった.しかし,30年近く間をおいて,Lake Vostokが脚光をあびるようになり,最近になって干渉SAR法による推定が行われ,GPSによる実測も上記,協同研究で実現した.これらのまとめが表1である.

表1.Vostok基地での流動速度.
文献 速度(m/yr) 方位(真北から時計回り) 方法
Liebert(1980) 3.7 ± 0.7 142 ± 10 天文測量
Kwok et al.(2000) 4.2 ± 0.3 130 InSAR
Bell et al.(2002) 3.0 ± 0.8 131 ± 4 GPS
Wendt et al.(2004) 1.98 ± 0.01 133.5 ± 0.1 GPS

残差潮汐で推定されるボストーク基地の上下振幅変動.ボストーク基地は湖の南東端にあたるので,理論予測通りになるかどうかが注目される.


図3. もし観測された重力潮汐から理論固体潮汐と,NAO99b海洋潮汐成分を差し引き,残った成分が-0.29μGal/mmの変換係数で上下変動に置き換えられるとしたら,実際にGPS観測を行った2002年12月1日からの変化は2cmくらいの全振幅でM 2O 1が卓越した変動になるだろう.これは単純化しすぎた議論で,実測された振幅はもっと小さいが,着底した氷床に対する湖水上の氷床の動きに日周,半日周変化があることは確かなようである.(Doi, K., et al. より)

参考文献
Doi, K., Shibuya, K., Wendt, A., and Dietrich, R.(2004): Tidal gravity variations at Vostok Station/ Antarctica revisited, Earth Planets Space, prepared for submission.
Liebert, J.(1980):Geodetic-astronomical activities during the 8-th and 17-th SAE. Geodaetische und geophysikalische Veroeffentlichungen, Ser. 1, No. 9, 51-53 (in German).
Kwok, R., Siegert, M. J. and Carsey, F. D.(2000):Ice motion over Lake Vostok. J. Glaciol., 46, 689-694.
Bell, R. E., Studinger, M., Tikku, A. A., Clarke, G. K. C., Gutner, M. M. and Meertens, C.(2002):Origin and fate of Lake Vostok water frozen to the base of the East Antarctic ice sheet, Nature, 416, 307-310.
Wendt, J., Dietrich, R., Fritsche, M., Yuskevich, A., Kokhanov, A., Senatorov, A., Lukin, V., Shibuya, K. and Doi, K.(2004):Determination of ice motion based on precise GPS measurements over the southern part of the subglacial Lake Vostok, Antarctica. J. Glaciol., submitted.



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