月が真上に来たときに海水の盛り上がりが最大になる(位相遅れが0となる)とは限らない.ローカルに見ると海洋潮汐の位相は場所によって遅れたり進んだりしているが,地球全体のネットで見ると位相は大きく遅れている.これは,海洋にエネルギーを消散するメカニズムが存在するからである.消散メカニズムとしては,海底摩擦や内部波へのエネルギー転換が考えられている.
地球全体で見た潮汐による膨らみが月の方向からずれていると,この膨らみに月が及ぼす引力によって地球の自転にブレーキがかかり,月の公転は加速される(図5).つまり,地球−月系として角運動量保存則が成立しており,月は地球の角運動量を少しずつ掠め取っているのである.この結果,地球の一日の長さは長くなり,月は地球から遠ざかっていく.
観測によれば,M 2海洋潮汐エネルギー消散率は2.4TW(テラワット)であり,一日の長さは100年で2.4ミリ秒長くなり,月は年間3.8cmずつ地球から遠ざかっている.月が遠ざかれば視直径も小さくなるので,数億年後には皆既日食は見られなくなり,数十億年後には地球も現在の月のように自転周期と公転周期が一致した状態で安定するであろう.
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