月の周りを回る衛星は月の重力場の影響を受けて運動する.逆に,衛星の運動を電波で追跡すれば月の重力場を調べることができる.しかし,月はいつも表側を地球に向けているため,裏側に回った衛星を追跡することができない.そこで,SELENE計画では,主衛星が裏側にいる間はリレー衛星を中継してドップラー信号を地球に送るようにするので,月の裏側の重力場を初めて直接観測することができる.この場合に,地球からリレー衛星にS帯の搬送波が送られ(経路1),リレー衛星で周波数を変換して裏側の主衛星に送られ(経路2),主衛星で周波数を再び変換してリレー衛星に折返し(経路3),リレー衛星からはX帯に周波数変換して地球に送られる(経路4).この観測は4つの経路から成り立つので4-wayドップラー観測と呼ばれる.これと同時に地球からリレー衛星に送られるS帯の搬送波を,同じS帯で地球に折り返す2-wayドップラー観測も行われ,リレー衛星自身の軌道を同時に求める(図2).
これまでは,月の裏側を飛ぶ間の衛星の軌道は,表側の軌道を外挿して再び表側に現れる軌道につなげるようにして推定されていた.その場合に,重力場の振幅に波長が短くなるとともにある一定の比率で小さくなるという経験則を仮定する.したがって,そのようにして推定された裏側の重力場,とくに短波長の重力場には大きな誤差があると考えられている.
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図2. (1)主衛星と2つの子衛星を用いた月の裏側の重力場観測,(2)VLBIとドップラーによる重力場の3次元観測.
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