1892年に見つけられたチャンドラー極運動は,その後も脈々と観測が続けられている.宇宙測地技術の登場以前の極運動の観測は,星の光学的な観測に依っており,現在の国立天文台水沢の前身である緯度観測所(International Latitude Observatory)は,日本が先進国の仲間入りをする遥か昔の1899年から国際協力観測の一翼を担った
前述したコマのみそすり運動との類推で考えるとわかるように,自由振動は励起されなければいずれは減衰してしまう.極運動の観測結果によると振幅の増減はあるにせよ,チャンドラー極運動の振幅がゼロになったことはこれまでのところ一度もない.つまり何かによって励起されてきたはずである.ところがこの励起源がチャンドラー極運動発見以来の謎であったのである.また励起源がわからないと減衰の時定数もわからない.チャンドラー極運動という地震波の周波数帯からは桁違いに離れた「自由振動」の減衰は,マントルダイナミクスの観点からみても興味深い問題である.
励起源の説としてこれまで提唱されてきたものには,上は大気から下は流体核にまで至っており,文字どおり百家争鳴の状態にあった.1970年代の一時期には「地震励起説」が一世を風靡したこともある.1960年のチリ地震にともなって極の位置が変化したように見える観測結果があったためである.しかし地震が励起するという説は現在では理論的にもほぼ否定されている.ただしチリ地震クラスの巨大地震が起きれば,現在の宇宙測地技術によれば,その地球回転への影響の検出は可能である.
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