海底の上下変動を測る現実的な方法は海底の圧力観測である.海岸付近の潮位観測はその一例である.高精度の水晶圧力計が市販されているので,比較的手軽な観測でもある.前述の音響測距を利用して上下方向の変動を測ることは難しい.平均音速の変化が測距に直接影響するからである.
問題は海底の圧力変動が,海底の上下変動と海洋変動の影響の和であるという点である.気圧の影響はほとんど海面で補償され,波浪の影響は減衰して深海底までは届かない.海底の変動を観測するためには海洋の変動をどう分離するかが問題であり,測線に沿ったアレイ観測は有効な観測手法である.一般に海洋変動の波長は100km以上であるが,海底の変動の波長は,プレート境界や断層の近傍など場所を選んで観測すれば1kmのオーダーとなる.例えば数kmの測線に沿って海底圧力のアレイ観測を行えば,その測線上でほぼ共通に観測される変動は海洋変動であり,相対的な変動は海底変動であると解釈できる.
東京大学海洋研究所(現在は東北大学)のグループは,このような手法で東太平洋海膨南部において海底圧力観測を行い,拡大軸近傍の沈降と,エルニーニョの収束に伴う海底圧力変動を観測した.この観測は,先に紹介した海上保安庁の水平音響測距の近傍で並行して行われたものである.両方の観測結果は,中央海嶺の海底は間歇的なマグマ活動で拡大し,その後は冷却に伴い収縮することを示唆している.
図5に示すように,海底で圧力と重力を測定すれば,海底の上下変動の影響と海洋変動の影響を分離できるが,今のところ,海底重力測定の精度が問題である.
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