海底のプレート境界における水平変動は,音波の往復時間を計測して距離を求める方法,すなわち音響測距で観測できる.地形にもよるが,水平距離が数km以下の場合には,図2に示すような装置を用いて,海底間の距離を直接測定することができる.新しいプレートが生成され離れていく中央海嶺や,プレートが相互に横ずれ運動しているトランスフォーム断層では,主たる変動帯の幅は狭く,1kmもあればプレート間の相対運動をモニターできるところが多い.陸からどんなに離れていても,海底に複数の音響測距装置を設置するだけで,その間の距離変化を長期連続モニタリングできるところがこの方式の利点である.
音波信号の到達時間を高精度に計測するために,GPS測位と同じようにコード化した信号を相関処理する方式など,レーダー用に開発されたパルス圧縮技術を用いる.海流の影響などを避けるために,音波の往復時間を計測する.海中の音速は約1,500m/sであり,温度,圧力,塩分の増加とともに速くなる.深海底の温度変化は年間を通して100分の1度程度であるので,1万分の1度で温度変化を測定すれば,1cmより良い精度で音響測距が可能になる.
平均して年間約14cmという地球上で最も高速で拡大している東太平洋海膨南部の拡大運動を実測するために,海上保安庁は1997年から約14ヶ月間,拡大軸を挟んで音響測距の観測を行った.意外なことに,拡大軸はわずかに収縮しているという結果が得られた.プレート境界の変動は間欠的であるということを示す重要な観測例である.
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