目次 | 第3部 応用編 | レーザー伸縮計
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1.伸縮計の基礎 2.レーザー伸縮計 3.ターゲット

レーザー伸縮計 − レーザー伸縮計のターゲット

 レーザーが初めて出現してから約40年を経過した21世紀初頭には,レーザー発振器の周波数安定性を10-13の桁で制御することが可能となった.岐阜県神岡町の神岡鉱山内にある東京大学宇宙線研究所の地下実験施設に,ヨウ素安定化倍波YAGレーザー(波長:0.532μm,波長安定性:10-13)を光源とし,100mの基線長をもつ直交2成分の高精度レーザー伸縮計システムの建設が2002年からすすめられていたが,2003年6月に,いよいよデータ取得が開始された(竹本・他(2003)).このシステムは地下1000m の強固な片麻岩帯に設置され,レーザー光路およびレーザー干渉計を納める容器の真空度は,10-5Paに保たれている.

 この神岡鉱山内に設置された高精度レーザー伸縮計システムのひずみ分解能は10-13の桁であるが,これは重力変化の精密観測に用いられている超伝導重力計の分解能に匹敵する.従って,超伝導重力計観測のターゲットとなっているサイスミック・コア・モードコア・アンダートーンや地球の自由振動の常時励起などは,神岡レーザー伸縮計システムのターゲットでもある.2004年度中には,この神岡鉱山高精度レーザー伸縮計システムに隣接して超伝導重力計の設置が計画されているが,これが実現すれば,高精度レーザー伸縮計システムと超伝導重力計とを組み合わせることにより,地球の流体核共鳴効果の詳しい検討や,地球の自由振動の常時励起にトロイダル・モードが存在するか否かなどの検証も可能となると考えられている.

 さらに,上記のひずみ計システムはマイケルソン型の干渉計方式で,2点間の距離変動を高精度に測るものであるが,有感地震など大きい変動が加わった場合には干渉縞が急速に変化し,その間,データ・サンプリングが追いつかなければ,欠測を生じ,ひずみデータに不連続が生じる.光波測量のように2点間の絶対距離が検出できれば変動の前後の位置変化を直接検出できる.ただし,光波測量の分解能はミリメートル・レベルであり,100mの基線長で有意な信号を取り出すには不十分な分解能である.そこで,絶対距離測定の分解能を向上させるために南北方向100mの基線長をファブリ・ペロウ型干渉計の光共振器とすることで,0.1μmの分解能をもつ「絶対長干渉計」を組み込むこととした.これにより,近傍の跡津川断層の断層運動に伴うひずみ変動のリアルタイム・モニターが可能となるほか,この地域で発生する中小地震の際のストレイン・ステップの定量的な観測や,サイレント地震の検出なども期待できる.


図3. 神岡鉱山内高精度レーザー伸縮計システム(2003年6月11日撮影).

参考文献
Takemoto, S.(1979):Laser Interferometer Systems for Precise Measurements of Ground-Strains, Bull. Disas. Prev. Res. Inst., Kyoto Univ., Vol. 29, Part 2, 65-81, 1979.
竹本修三・新谷昌人・赤松純平・森井亙・東 敏博・福田洋一・尾上謙介・市川信夫・川崎一朗・大橋正健・寺田聡一・百瀬秀夫(2003):神岡鉱山における100メートルレーザー伸縮計について, 京都大学防災研究所年報, 第46号 B, 749-755.



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