目次 | 第3部 応用編 | 荷重潮汐
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1.弾性体地球での荷重潮汐 2.非弾性体地球での荷重潮汐 3.荷重変形と環境問題

荷重潮汐 − 非弾性体地球での荷重潮汐

 地球の大局的な構造の特徴(第1義的な構造)は,その層構造にある.良く知られているように,表面から,地殻マントル流体核,固体内核の4層に大別される構造を持っている.流体核は別として,地球の全体としての変形は弾性体として良く近似できる.理論的な研究によると,地球の非弾性の影響は潮汐の位相変化で約1/100度以下と見積もられており,これは,いかに地球が弾性体として良く近似できるかを物語っている.

 一方,水飴が良い例であるが,それをたっぷりと箸に巻き取るには,箸をゆっくりと操作する必要があり,たたくと弾性体のように反発する.このように,水飴のような粘弾性体は外力の周波数により弾性体のように振舞ったり,粘性体のように振舞う.これは地球でも同様で,地球の非弾性の影響は周波数によって変化する.この事実が,実体波(周期:1秒〜数10秒),地球自由振動(1分〜1時間),短周期潮汐(数時間〜1日),長周期潮汐(数日〜18.6年),極運動(1年,14カ月),そして地殻変動も含む永年的な変動のそれぞれの帯域で,地球の非弾性パラメータ(1周期に消散されるエネルギーの割合と関係したクオリティー係数Q 値で代表される.Q 値が大きい程,弾性体に近い)を精密に決めることが,マントル対流を含む,広い周波数帯域での地球の運動を考える上で重要な意味を持っていることが分かる.

 上で見たように,短周期潮汐の観測から地球のQ 値を決めるのは,その帯域での位相への影響の小ささ,また海洋潮汐モデルの精度の問題もあり,高感度,高精度な超伝導重力計の観測でも容易なことではない.長周期潮汐の観測ではその可能性が高いが,しかし,問題がある.それは,長周期潮汐が緯度約35°のところに節を持つため,多くの観測が行われている中緯度地帯での振幅が小さく,精度良い観測が難しい点である.一方,長周期潮汐の振幅は,両極で最大になる.このことに注目し,日本の超伝導重力計グループ(GGP-Japanグループ)は,潮汐帯での地球の粘性パラメータを精密に決めることもその大きな観測目的の1つとして,1993年,南極昭和基地での超伝導重力計による観測を開始した.ここでの観測も10年以上の観測データが蓄積され,また,その間に海洋潮汐モデルの改良も進んだ.いよいよ,重力潮汐観測から地球の粘性について本格的な議論が展開できる時代がきている.




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