目次 | 第3部 応用編 | キネマティックGPS
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1.キネマティックGPSの原理 2.仮想基準点方式 3.キネマティックGPSの応用

キネマティックGPS − キネマティックGPSの応用

 キネマティックGPSは当初工業的応用(例えば,ブルドーザーの遠隔操縦等)や測量などの限られた分野で用いられていたが,衛星数が多くなり解析アルゴリズムやソフトウェアの改良などにより,近年目覚しい発展をとげ,多くの地球科学分野でも用いられるようになってきた.今後GALILEO計画などが実用化されて利用可能な衛星数が多くなるにつれ,利用価値がますます高まることが期待される.

1. 火山体の地殻変動観測
 火山が噴火するような場合は,通常の地殻変動と比べてその変動速度が速い.そこで,このような火山体の変動を監視し,特に噴火直前直後の急激な山体の膨張・収縮をとらえてそのメカニズムを解明しようとする場合にはキネマティック観測が有効と言える.見ている現象にもよるが,必ずしも1秒サンプリングのような高頻度サンプリングである必要はない場合もある.

2. GPS-音響システムによる海底地殻変動の検出
 GPSで利用している電波は水中を伝わらないので海底の地殻変動を直接計測することができない.そこで,船やブイに設置された音響装置の位置をキネマティックGPSで計測し,水中では音波を利用して海底の基準点の重心位置を計測し,これを繰り返すことで海底の地殻変動を検出する方式が研究されている(この項については「海底地殻変動観測」を参照のこと).

3. GPS津波計
 海面におかれたブイにGPSを搭載して海面高変動をキネマティックGPSによって常時監視すれば,津波の襲来を海岸への到達前に検知して住民に知らせることにより津波防災に役立つと考えられる(図3a図3b).このようなシステムが研究され,実用化されつつある.図3bは大船渡沖に設置された津波計の例である.ブイは深さ約50mのところに係留されていて,直径2.8m,重量約12トンである.ブイの先端にGPSアンテナが取り付けられ,無線によってデータは陸上の基地局に伝送され,解析された結果はインターネット上で公開されている.なお,1秒サンプリング程度で観測していれば通常の風波による海面高を監視できるほか,気象観測装置などを搭載することにより海洋の総合観測装置としての利用価値は大きい.GPS津波計は海底圧力計などと比較して精度はやや劣るが,安価に設置できる・保守が容易などの特徴がある.図4には2003年十勝沖地震の際に取得された津波の例を示す.上がGPS津波計による記録,下は津波計近傍に設置された検潮所の記録である.

4. GPS地震計
 通常,静止測量で計測する地面の動きも,高頻度のサンプリングとキネマティック処理を行うことにより,地震の際の高速の振動を計測することが可能である.振り子を用いる地震計と異なりGPSでは大きな変位でも計測可能であり,かつ低周波成分まで計測できることから,大きな地震の震源過程の総合的な理解に役立つと期待されている.日本列島では地震計とGPS観測点が多数設置されていること,またGPS観測点で1秒サンプリングの取得が多くの点で可能になっていることから,GPS記録と地震計の記録の比較が可能となった.


図3a. GPS津波計の原理.

図3b. 大船渡沖に設置された津波計.

図4. 2003年十勝沖地震に際して得られたGPS津波計の記録(上)と近傍の検潮所の記録(下).津波計記録は原データの60秒移動平均値.時間原点は地震発生時刻.



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