目次 | 第3部 応用編 | 超伝導重力計
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1.超伝導重力計とは 2.感度 3.原理 4.感度検定 5.応用(I) 6.応用(II)

超伝導重力計 − 超伝導重力計の応用(I)

 超伝導重力計相対重力計としては据え置き型に属するので,ある1ヵ所に設置して,その場所における重力の時間変化を観測することに使用される.重力が時間変化する要因はさまざまであり,その周波数スペクトルにも多様な成分が含まれているが(図5),超伝導重力計は地球の極運動(1年の時間スケール)から地球自由振動(1時間から1分程度)までのきわめて広い周波数範囲をカバーしており,これらすべてが観測研究の対象となりうる.

 地上に固定した点で観測される重力変化には,大きく分けて以下の4つの原因がある.(1)地球外部の重力場の変化.(2)地面が上下に変位することにより,地球の中心からの距離が変わること.(3)同じく上下変位のときにかかる鉛直加速度.(4)地球内部の物質移動にともなって質量分布が変化することによる重力ポテンシャルの変化.これらは一体となって,1つのスカラー量として観測され,個々の成分を分離することは一点の重力観測だけからはできない.

 重力変化のなかで最大の成分は,地球の固体部分が月や太陽の引力によって変形する現象,つまり「地球潮汐」である.周期は約12時間と約24時間のほか,1ヶ月や1年など多くの成分からなる.ここでは上述の4つの原因のうち,(1)が主要な寄与をしており,地球の変形も副次的な効果をもっている.超伝導重力計によって記録された地球潮汐による重力変化を精密に観測・分析することにより,地球内部の弾性構造だけでなく,核‐マントル境界(Core-Mantle Boundary:CMB)の形状などについての研究が行われている.

 超伝導重力計の記録に大きな影響を与えるのが,大気圧の変化である.地表での気圧というのは頭上の大気の質量による荷重を積分したようなものであるから,気圧が高く(低く)なれば大気の質量による上向きの引力が増加(減少)し,重力が減少(増加)する(つまり,上述の原因のうち(4)の寄与).一方,大気圧によって地面が押されて変形する効果もあり,こちらは引力と逆センスに働くが絶対値としては小さい((2)の寄与).これらを合計した効果として,気圧が1hPa変化すると,重力がおよそ0.3μGal変化することが知られている.この効果は,厳密には地球全体の時々刻々の気圧分布を考慮に入れないと正しくモデリングできないと言われており,単に重力への補正ということにとどまらず,大気の鉛直構造や地殻の粘弾性的な性質とも関連して興味深いテーマとなっている.

 超伝導重力計は加速度を計測するので,地面の長周期の振動を記録する地震計としても高い性能を有することが示されている(4つの原因のうち(3)の寄与).地球全体としての弾性振動である地球自由振動(周期は1時間程度から1分程度)の研究への超伝導重力計の本格的な応用は始まったばかりであり,今後の進展が期待される分野でもある.比較的最近の話題としては,超伝導重力計の記録から,地震が発生していないときでも地球自由振動が励起されていることが発見され,常時地球自由振動と呼ばれている.その励起源の解明を通して,地球の固体部分と流体部分との結合に関するまったく新しい知見がもたらされつつある.


図5. 地上で観測されるおもな重力変化.ここには記していないが,大気圧の変化が,数分程度から1年程度の広い周期帯にわたって,最大10μGal程度の影響をおよぼす.原図はD. Crossleyによる.


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