言うまでもないことだが,地震にともなう重力変化を調べるには,地震の直前と直後の両方のデータとが必要となる.地震直後の重力観測は比較的容易なのに対し,直前の観測データをとることは非常に難しい.というのも安価な地震計とは違って,高価な絶対重力計は数が少なく,調整も難しいので,(1)広い範囲で多数の点を配置し同時に観測することができない上に,(2)1年以上の長期間にわたって連続観測することも現時点では不可能だからである.したがって,地震の直前に震源のすぐ近くで観測をするというのは,普通はありえないことである.だが,岩手県雫石地震(M6.1,1998/9/3)の観測例は,そのありえないことが実際に起きた例である.
ちょうどこの時期には,図3に示すように岩手山の火山活動が活発であったので,GPS・水準測量・光波測距などの観測が連日にわたって行われていた.絶対重力,相対重力の観測も国土地理院によって,奇しくも地震の前日(!)まで行われていた.しかも震央からわずか数kmの地点においてである.噴火活動には結局至らなかったけれども,この稠密な観測網のおかげで,地震にともなう地殻変動や重力変化が見事にとらえられたのである.
例えば,図4の絶対重力の時間変化は,地震にともなう重力変化を1μGalの精度でとらえている.これは世界で初めて,絶対重力計で定量的にコサイスミック(地震時の)な重力変化を検出した貴重な例となった. 地震後のデータは7日後から得られているが,欲を言えば何とか地震直後からのデータが得られれば,余効変動もみえたかもしれない.これは将来の課題である.とはいえ,観測された重力変化は6μGalの重力減少であった.この点を基準として求めた周囲の重力変化や,水準測量・GPS測量・光波測量のデータをもとに解析をしてみると,2枚の断層モデルできわめてよく説明されることがわかった(Tanaka et al., 2001).これは観測を通じて,1990年代に提出された重力変化の理論(Okubo, 1992)を検証した最初の例となった.
|
図3. 雫石地震の震央と各種観測機器配置.
図4.雫石地震の直前1日までと,直後7日以降の絶対重力(断層モデルによる予測値は-5μGal).
参考文献
Tanaka et al(2001):Geophys. Res. Lett., vol. 28, No. 15, 2979-2981.
Okubo(1992):J. Geophys. Res., vol 97, 7137-7144.
|