目次 | 第3部 応用編 | SAR地殻変動
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1.干渉SARとは 2.干渉SARの原理 3.干渉画像 4.波長による干渉性の違い 5.干渉SARの誤差要因 6.干渉SARで捉えた地殻変動(1) 7.干渉SARで捉えた地殻変動(2) 8.干渉SAR解析の応用 -2.5次元観測-

SAR地殻変動 − 干渉画像

 SARデータを干渉処理して得られる初期干渉画像には,地表の変動による位相変化(変動縞)に加え,2時期の衛星の軌道が一致しないために生じる位相変化(軌道縞および地形縞)が重なっている(図2b).したがって,干渉SAR地殻変動を求める場合,初期干渉画像から軌道縞,地形縞を除去して変動縞だけを取り出す必要がある.

 軌道縞,地形縞は,2時期の衛星の位置関係から幾何学的に計算することができる(図3図4).軌道縞△ Φ orbitは,地形がない標高0mの仮想的な地球表面と衛星との距離の変化によって生じる縞模様(図2bの平野部に見られる平行な縞)であり,(式5)によって表される.

(式5)

 地形縞△ Φ topoは,地表の各地点の標高に対応する等高線状の縞模様(図2c)であり,(式6)によって表される.基線値が既知であれば,他の干渉SARデータやデジタル標高モデル(DEM)から地形縞をシミュレートすることが可能であり,これを用いて干渉画像から地形縞を除去することができる.地形縞を差分で取り除くことから差分干渉SARとも呼ばれる.地形縞のシミュレートの際にDEMを用いる方法は,2回のSAR観測から変動縞が得られるため2-pass法と呼ばれる.解析対象地域のDEMがない場合は,変動がない時期のデータから地形縞のみの画像を作成し,これを用いて地形縞の除去を行うことができる.この場合には,3回または4回の観測が必要であり,観測回数に応じて3-pass法,4-pass法と呼ばれる.

(式6)

 初期干渉画像から軌道縞,地形縞を除去すると,地表面の変動によって生じる位相変化(変動縞)が得られる(図2d).ただし,得られる変位量は衛星と地表のターゲットとを結ぶ直線(衛星視線方向)に平行な成分のみであり,衛星視線方向に垂直な方向の変位には感度がない(図5).変動縞△ Φ deformと地表変位の衛星視線方向成分△ D の関係は,(式7)で表される.軌道縞,地形縞とは異なり,基線長や衛星−地表間の距離とは関係がなく,位相変化量は地表の変位量のみに依存する.位相の減少は衛星−地表間の距離が減少したことを意味し,その地点での変動が隆起もしくは(衛星が対象地域の東側上空から観測している場合は)東への変位成分を持っていることを示す.逆に,位相が増加した地点では沈降あるいは水平変位が西への成分を持っていることになる.

(式7)

 干渉SARにより得られる変位情報は,変位に相当する位相の絶対量ではなく-π〜+πの間の値となる(図6).実際の変位量を求めるためには,位相の絶対量が-π〜+πの範囲に折り畳まれて(wrap)いるのを元に戻す(unwrap)作業が必要となる.これを位相アンラッピングという.この位相の1周期は,SARセンサが用いているマイクロ波の波長の1/2の変位量に相当する.本章で用いているJERS-1/SARは波長23.5cmのマイクロ波を用いているので,干渉画像での位相の1周期の差は11.8cmの変位量の差にあたる.


図2. (a)強度画像,(b)初期干渉画像,(c)地形縞,(d)地形縞シミュレーション.

図3. 軌道縞.

図4. 地形縞.

図5. 変動縞.

図6. 干渉SARで得られる位相と変位量の関係.



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