目次 | 第3部 応用編 | 絶対重力測定
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絶対重力測定 − ブルに引かれて富士山参り 富士山頂に登った絶対重力計

 「豚もおだてりゃ木に登る」という諺がある.総重量500kgの絶対重力計だって富士山頂に登るのである.なにしろ相手は日本最高峰であるし,こちらはレーザー干渉技術が組み込まれた,実験室仕様の超精密機器(はこいりむすめ)だから大変である.とはいえ,三宅島での3年間の連続観測で名をはせたように,ノウハウはそれなりに蓄積してきたので,挑戦してみることとした.

 ここで,「なぜ,富士山頂か」について説明しておきたい.まず,2000年12月に富士山直下で発生した低周波地震活動がきっかけとなり,その火山活動の長期的なモニタリングの必要性が痛感されたことが挙げられる.また,1880年のメンデンホール・田中館愛橘の振り子による測定以来123年ぶりとなる絶対測定を行うという,科学史(!?)的な意味づけもあった.

 このような意義を踏まえ,2003年8月末に地震研究所と気象研究所の合同チームで,機器梱包に防振対策を施した上で,ブルドーザーによって山頂まで機材を運び上げた.絶対重力測定自体はあっけないほど簡単に成功した.もちろん,事前に高山特有の諸問題の洗い出しと対応を徹底的に行ったおかげである.例えば,地上気圧の2/3という低圧環境では,人間が高山病にかかるのと同様に,パソコンやレーザーも変調をきたす.特にノート型のハードディスクでは障害が現れやすいので,これを15,000フィートまで動作保証のある外国メーカーのものに交換した.また,気圧減少によって,レーザーの出力が数十%低下する(チューブの内・外の気圧差で弾性変形するため?).これには,光電素子を鋭敏なものに交換することで対応した.かくて,総データ数4,959,標準偏差14.2μGalの好成績で,山頂三角点の重力値として978865.398mGalという結果が得られたのである.



図1. ブルドーザーによる精密な絶対重力計の搬送.(上)ブルドーザーの前面に機材を搭載 (b)ブルドーザー車中(5合目付近)から望む富士山頂.ブル道が延々と続く.



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