目次 | 第3部 応用編 | 超伝導重力計
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1.超伝導重力計とは 2.感度 3.原理 4.感度検定 5.応用(I) 6.応用(II)

超伝導重力計 − 超伝導重力計の感度

 超伝導重力計の特長の1つは,超伝導に基づいた動作原理により実現された,並外れて高い感度である.超伝導重力計の感度のことを語るときによく出てくるのが,μGalとかnGalといった用語である.これらは加速度の大きさを表す単位で,1Gal = 0.01ms-2である.μGalは1Galの百万分の1,nGalは十億分の1である.Gal(Galileiに由来する)という単位はCGS系なので論文などではなるべく使用しないことが求められているが,研究の現場においてはこれらが感覚的にわかりやすいのと歴史的事情によりいまだによく使用される.MKS単位における加速度の単位がms-2となるのは,加速度が位置の座標を時間で2回微分したものに相当することを思い出せば理解できるだろう.

 さて,超伝導重力計の感度は,1μGal(=10-8ms-2)をゆうにこえ,1nGal(=10-11ms-2)にも迫ると言われる.1nGalの加速度とは,どのような大きさであろうか.地上の重力加速度はおよそ9.8ms-2,丸めれば10ms-2である.これは103Galということである.1nGalは,その1012分の1に相当する.1つたとえ話を引いてみることにしよう.いま,体重60kgの人が2人,20mの距離で向きあったとする.話を簡単にするために人間の全体重が一点に集中しているとすると,2人の間に働く引力の加速度は,ニュートンの万有引力の法則により,約1nGalと計算される.1nGalというのは,これほど小さい加速度なのである.

 このようなきわめて微小な加速度を測るということは,どのような意味があるのだろうか.再びたとえ話をすると,人間がまっすぐ歩いたり自転車に乗ったりできるのは,1つには人体の中(耳)に加速度センサーが内蔵されているからである.このセンサーの感度はそれほど高いものではなく,周期にもよるが検出能力は1Galくらいであると言われる.実際,最小の有感地震,つまり「震度1」における地動加速度の大きさは,1Gal程度である.そうすると,加速度センサーとして,超伝導重力計は人体よりも9桁ほど感度が高いということになる.このことは,例えば,どれだけ遠くを見ることができるかという能力にも比較できるであろう.可視光線に対して最適化されて発達した人間の眼の分解能は(個人差はあるが)意外に高く,視力1.0というのは角度の分解能にして1’(1°の60分の1)に相当する.だから肉眼でも視直径約30’の月面の模様を識別できるわけである.一方,ハッブル宇宙望遠鏡の分解能は0.01”(1”は1°の3,600分の1)のオーダーに達する.最大の電波望遠鏡の分解能も同程度である.これらは肉眼よりも4桁ほどすぐれているということができる.分解能が高く,細かいところまで見えるということは,遠方の銀河の観測を可能にし,それは考えている空間スケールを一気に拡大することにつながる.このことからの類推で言えば,より微小な加速度を測定できるということは,より遠方で起きる質量移動に対して感度をもつことにつながり,やはり観測の対象となる空間スケールを拡大する効果をもっているのである.(興味のある方は,例えば細かいものを見分ける能力など,他の事柄についても,さまざまな相似則が成り立っているので,そのことの意義などについてご自分で調べてみられるとよいであろう.)


図2. 加速度の単位と大きさ.


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