目次 | 第3部 応用編 | Hi-netによる微動とゆっくり地震
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1.NIED Hi-netの傾斜観測 2.深部低周波微動 3.微動と同期した傾斜変化 4.沈み込み帯での巨大地震発生サイクルへの影響 5.カスカディア沈み込み帯での類似現象

Hi-netによる微動とゆっくり地震 − 沈み込み帯での巨大地震発生サイクルへの影響

 フィリピン海プレートが沈み込んでいる南海トラフでは,ほぼ100-150年間隔でマグニチュード8クラスのプレート境界型巨大地震が繰り返し発生している(例えば,地震調査研究推進本部編「日本の地震活動」8-1(1)太平洋側沖合いなどのプレート境界付近で発生する地震).前項で見たような微動とスロースリップの発生している場所は,この巨大地震の震源域の深部延長上にあたると考えられる.

 従来,沈み込み帯での巨大地震発生サイクルは,(a)地震間:地震発生領域は固着して動かず,その深部では定常的にプレート間でずるずるとすべる(非地震性すべり)ことにより,浅部の地震発生領域に応力を蓄積していく,(b)地震時:蓄積している応力が限界に達すると,浅部の固着が剥がれ,巨大地震となる,という2つの状態を繰り返すと考えられてきた(図3a,b).しかし,上記のように地震発生領域の深部延長部でスロースリップイベント,言い換えれば間欠的な非地震性すべりが繰り返し発生していることが明らかになってきたことは,このような従来の地震発生サイクルの考え方を修正する必要があることを意味する.すなわち,地震発生サイクルに(a')スロースリップイベント:固着した地震発生領域のすぐ深部で間欠的にすべりが発生することにより地震発生領域に間欠的に応力を蓄積していく,という新たな状態が加わることになる(図3a').これは地震発生領域の応力蓄積が,従来考えられていたように時間的に一定に進んでいくわけではなく,ぎくしゃくしながら進行するということを意味している.そうであれば,(a)の状態よりも(a')の状態の時が,より(b)の地震発生に移行する可能性が高いと言えるかもしれない.  

 巨大地震の発生前には,その震源域の深部延長上でプレスリップ(先駆的な非地震性すべり)が発生していたことを示す地殻変動の存在が指摘されている(たとえば,Iio et al., 2002;Linde and Sacks, 2002).これは上記の新しい応力蓄積過程の考え方を支持する現象かもしれない.すなわち,地震間に発生する(a’)スロースリップイベントの最後の1つが(b)巨大地震発生に移行したものが,結果的にプレスリップと呼ばれるのではないだろうか.  


図3. プレート沈み込み帯での巨大地震発生サイクル.沈み込みプレート境界の断面を模式的に示した.(a),(a'),(b)は本文参照.なお,(a')の`SSE’はスロースリップイベントを示す.

関連Webサイト
地震調査研究推進本部のホームページ内「日本の地震活動」の紹介ページ


参考文献
Iio, Y., Kobayashi, Y., and Tada, T.(2002):Large earthquakes initiate by the acceleration of slips on the downward extensions of seismogenic faults, Earth Planet. Sci. Lett., 202, 337-343.
Linde, A. T., and Sacks, I. S.(2002):Slow earthquakes and great earthquakes along the Nankai trough, Earth Planet. Sci. Lett., 203, 265-275.



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