目次 | 第3部 応用編 | Hi-netによる微動とゆっくり地震
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1.NIED Hi-netの傾斜観測 2.深部低周波微動 3.微動と同期した傾斜変化 4.沈み込み帯での巨大地震発生サイクルへの影響 5.カスカディア沈み込み帯での類似現象

Hi-netによる微動とゆっくり地震 − 微動と同期した傾斜変化

 微動源のクラスターがいくつか存在する四国西部域では,微動は約6ヶ月ごとに活発化している.その微動活発化と同じ時期に,同地域のHi-net観測点の傾斜記録に変化が現れた(図1).ここに示した2001年からの2年間では,4回のエピソードが観測された.1回のエピソードでは,傾斜変化も微動活動も約1週間継続する.また,傾斜変化の大きさは最大でも約0.1[μradian](=1×10-7[radian];10km先の地面が1mm上下に変化するときの地面の傾斜変化に相当)という非常に小さいものである.  

 図2に,2002年8月のエピソード時に各観測点で記録された傾斜変化をベクトルで表示した(青矢印).ここでは,1つのエピソード期間内の前半と後半で観測された傾斜ベクトルのパターンが変化したため,その前半と後半とを分けてそれぞれの期間での傾斜変化を示した.どちらの期間でも,傾斜ベクトルがこの領域の中央付近から外向きに広がっていくような分布をしているのが特徴的である.  

 これらの記録を解析した結果,上述のような傾斜の空間パターンは,地下40km付近で逆断層すべりが発生したと考えると説明できることが分かった.すなわち,沈み込んだフィリピン海プレートと陸側プレートの境界付近で1週間程度継続するスロースリップイベント(ゆっくりすべり,ゆっくり地震サイレント地震とも呼ばれる)が発生したと考えられる.また,推定されたすべりの場所と,同時期に発生した微動源の位置はよく一致する.さらに,図2に示した2002年8月のエピソードでは,期間の前半(期間A)に領域の南西部に位置した微動とスロースリップが,期間の後半(期間B)には領域の北東部に共に移動したことが分かった.このような,沈み込んだプレートの走向方向に沿った微動とスロースリップの移動性は他のエピソードでも観測されている.この結果は,前項で述べた微動源の移動にはスロースリップが伴っていたことを意味している.


図1. 四国西部における2年間の微動回数分布(下段)と愛媛県日吉観測点(HIYH)での傾斜変化(上段).微動回数は1時間ごとに求められた結果による.傾斜時系列は`N’,`E’と記したものがそれぞれ南北,東西成分で,図の上方向の変化がそれぞれ南,東下がりの傾斜を示す.微動の活発化に伴う傾斜変化が,この期間ではピンク色の縦線で示す時期に4回観測されている.(a)2001年1月(b)2001年8月(c)2002年2月(d)2002年8月

図2. 観測された傾斜変化(青矢印:矢印の方向は地面が傾き下がる方向),それから推定されたスロースリップの断層モデル(赤矩形・赤矢印),このモデルから計算される傾斜変化ベクトル(白抜き矢印).期間Aは,2002年8月6日から9日までの4日間,期間Bは8月10日から12日までの3日間の変化を示している.それぞれの期間に発生した微動の震央を橙色点で表示した.

参考文献
防災科学技術研究所(2004):豊後水道付近のスロースリップイベントと深部低周波微動, 地震予知連絡会会報, 71, 671-679.
Hirose, H., and Obara, K.(2004):Repeating short- and long-term slow slip events with deep tremor activity around Bungo channel region, southwest Japan(submitted).
Obara, K., and Hirose, H.(2004):Non-volcanic deep low-frequency tremors accompanied with slow slips in the southwest Japan subduction zone(submitted).
Obara, K., Hirose, H., Yamamizu, F., and Kasahara, K.(2004):Episodic slow slip events accompanied with non-volcanic tremors in southwest Japan subduction zone(submitted).




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